大切なものを守る場所「クラ」の知見:宮城県石巻市北上川沿いと岐阜県安八町
近年、身近なものではなくなりつつあるクラ。
自分にとっても原体験としては存在しておらず、例えば鑑定団などのテレビの世界で掘り出し物を見つけられたり、子供向けアニメの世界で閉じ込められたり、といったところが記憶にあるもの。
でも、古くから、クラは人々の生活に密接に関わってきた。山形出身の親に聞くとクラに閉じ込められた思い出が語られる。
クラと呼ばれるものには倉と蔵がある。今回はそれら2つのお話。
北上川沿いの板倉。木でできたクラ。
岐阜県安八町の土蔵(水屋)。土でできたみんなが思い浮かべるクラ。
コメグラ、ミゾグラ、イショウグラ。
これは3つ並んだクラの違いを聞いた時に住民から帰ってきたフレーズ。
実は入れるものによってその建築的特徴は変わってくる。
上記2つのものも、役割が異なっている。
まず、1つ目の板倉。これは基本的に木の調湿作用を有効に活用したコメを収蔵するためのクラ。
木でできたクラを倉と呼ぶ。
起源を辿ると穀倉で、弥生時代の高床式倉庫に至るとの説もある。
大切な食物資源を守るもの。
ちなみに写真の北上川沿いは洪水のリスクがある箇所。
そのため、地域に多く存在する板倉はどれも母屋よりも小高い丘の上にある。
万が一が起きても食糧難にならない、という先人の知恵。
2つ目は水屋と呼ばれる洪水対策としての蔵。
こちらは板倉よりもわかりやすく石垣の上にある。輪中と呼ばれる自然堤防上の、更に上部に作られた石垣の上。入念な対策。
こちらは米も貯蔵する場合もあるが、主として衣装や日用品。そして洪水時に人が逃げ込むことも想定されていることもある。
小さなクラ。されどそこには先人の知恵が見え隠れする。
ちなみにクラは、比較的資産に余裕がある、コメがたくさん取れる地形条件で発達する。さらに、板倉は東北や北関東の豊かな木材資源の地域が多い。土蔵は東北でも見られるが西日本に多い。古くは戦で禿山が多くなってしまった西では、土を使ったクラが発達したとの試論も見られる。純粋な調湿効果としては木の方が優位性が高く、土蔵を見せてもらうとその中に木の囲いが内包されるものも散見される。
みなさんもクラを見つけたら、あぁ、これにはどんな意味があるのだろう?
と考えてみては?
家を壊してもクラは壊すな。先祖が大切に守ってきたものだから。と言い伝えられ、母屋がなくなったり新しくなっても、クラは先祖代々という例は多い。
大切なものをしまう場所だからこそ、いろんなストーリーがあるはず。